老眼を自覚し始めた方が使用するメガネ「遠近両用レンズ」。でも、遠近両用って実はよく知らない方が多いです。そこで遠近両用レンズメーカーと言えばHOYA、Nikonという事で、レンズエキスパートの方に遠近両用の歴史や設計についてお聞きしました。
HOYAレンズエキスパート 山本 晋様
1988年にHOYA株式会社に入社し、営業・お客様相談室等を経て、現在は、社内外向けの教育、取引先メガネ店で実施される「メガネ相談会」等での消費者対応の業務に従事。これまでの豊富なお客様対応を活かし、遠近両用メガネに関して平易に分かり易くお伝えすることをモットーにお客様対応を行っております。
今回は眼鏡店向けではなく、一般の消費者の方にも分かりやすいような言葉でお答えいただいておりますので、遠近両用にご興味がある方は、是非、ご参考にしてください。
遠近両用の歴史を知ると、遠近両用の仕組みを理解しやすくなります!
筆者:遠近両用レンズのことを知りたいと思っている消費者が多いので、分かりやすく教えてください。
山本さん:では、遠近両用の歴史をご説明しながら仕組みをご理解いただくところから始めましょう。
遠近両用は「バイフォーカル」と呼ばれている二重焦点レンズから始まりました。
現在50代の方が社会人になった頃、社内の大先輩にバイフォーカルの遠近両用を掛けていた方がいらっしゃったと思いますので知っている方も多いでしょう。当時は種類やサイズも豊富で、素材もプラスチックだけでなくガラスレンズも数多く販売されていました。
筆者:確かに50代半ばに差し掛かろうかという私もバイフォーカルの遠近両用を販売していましたが、数的には境目のない「累進多焦点」の遠近両用レンズの方が圧倒的に多かったと記憶しています。
山本さん:そうですね。1980年に国産の累進多焦点レンズが発売されたのですが、その後、品質が向上したことで、主流は累進多焦点の遠近両用レンズへと入れ替わっていきました。
筆者:発売当初の累進多焦点の遠近両用レンズって、ユレやユガミが大きくて、慣れられない方が多かったように思いますが。
山本さん:それが元で「遠近両用レンズは慣れるのが大変」とか「見づらい」「使いづらい」という噂が有名になり、10年前くらいまでずっと囁かれていましたね。
筆者:でも、最近はあまり聞かなくなりましたよ。
山本さん:品質が向上した影響でしょうか、有り難いことに少なくなりましたね。
筆者:見栄えの問題もありましたよね。販売していた当時から「境目があるレンズはいかにも老眼鏡って感じで嫌だ」と言われていました。
山本さん:そうですね。確かに「私は老眼です!」って言っているようなものでしたから。
でも、バイフォーカルレンズの構造を理解しておくと、「累進多焦点」の遠近両用レンズの仕組みも理解しやすいので、下記のイラストを見ながらご説明していきましょう。
山本さん:イラスト中央上の二重焦点がバイフォーカルの仕組みになります。
基本的に「遠く」を見る為の度数と「近く」を見る為の度数の2種類の度数しか設定されていませんので、見える場所も「遠く」と「近く」の2か所のみとなります。
昔はこれで良かったのです。遠くが見えて、手元の書類や本、新聞等が読めれば日常生活に困ることは無かったのです。
しかし、見栄え以外のデメリットもありました。それは「遠く」と「近く」の間の『中間』が見えないことです。
この中間距離を補うためには右上の三重焦点のように、中間の度数を入れたレンズが必要になります。
さらに、その中間と近くの間の距離を補うためにはその間の度数が必要になり、左下のような細かい度数設定が必要になってきます。
これを細分化して、表面をなだらかにしたものが「累進多焦点」の遠近両用レンズの仕組みとなります。
筆者:こうやって見ると分かりやすいですね。
山本さん:先程「遠近両用レンズは慣れるのが大変だ」という消費者の声がありましたが、遠くを見る場所はレンズのどこにあって、近くを見る場所はレンズのどの部分を使うというのを体に覚えさせるのに、練習と時間が必要だったので「慣れるのが大変だ」と言われたのだと思います。
また、累進多焦点は表面をなだらかにした結果、周辺部にユレやユガミを感じやすい部分が出来てしまい、その部分を目線が通るとどうしても見づらくなってしまう為に「見づらい」「使いづらい」と言われたのだと思います。
筆者:それが徐々に改善されて見やすくなったという事でしょうか?
山本さん:諸先輩方が血のにじむような努力をしてくださった賜物だと思いますが、日々、見やすさを追求し、新たな設計の開発とレンズの加工技術を進歩させ続けたことで、慣れるまでの時間の短縮や、周辺部のユレやユガミを感じやすい部分を大幅に削減することに成功したのです。
遠近両用レンズの進化
筆者:では「累進多焦点」の遠近両用の進化について教えてください。
山本さん:一般的に知られているのが外面設計から内面設計、そして両面設計というレンズ設計の進化と切削技術の進化でしょう。
ご存じの通りレンズは外側が膨らんでいます。膨らんだ面を削るのは割と簡単に出来るのですが、内側の凹んだ面を精密に削るのは結構大変な技術が必要になります。この内側を削ることが出来るようになったことで内面設計が実現可能となり、結果として横方向の見え方が大きく進化しました。具体的には横方向の視野が広がったのです。
また、レンズの外側に縦方向の設計を行うことで、目線の下げ幅を少なくすることも出来ました。これにより楽に近くが見えるようになったのです。
この内側と外側の両側を合わせることで両面複合累進設計というものを作りました。これが2003年のHOYALUX iD(ホヤラックス アイディー)というレンズです。
筆者:HOYALUX iDは、もの凄く売れたレンズでした。お客様の評判も無茶苦茶良かったことを覚えています。
山本さん:有難うございます。 その後も数年ごとに中近タイプのiD Cliarc、廉価版のFD、進化版のTrinityが発売され2010年には中近寄りの遠近両用と言われたJAZを発売しました。
筆者:HOYALUX JAZ(ホヤラックス ジャズ)は衝撃的なレンズでしたね。「遠く」と「近く」、それぞれがハッキリ見えることに拘ってきた眼鏡業界に『見やすさ』や『使いやすさ』を持ち込んだのを覚えています。
山本さん:そうですね。昔と比べて近くを見る時間も増えましたし、消費者のニーズも多様化していましたので、それが上手くはまった形でした。
筆者:この時の発想が今でも受け継がれていますよね。
山本さん:はい。通常の遠近両用がFieldとして、中近重視の遠近両用がCityとして、室内用がRoomとして各レンズに設定されており、タイプが違っても同じ値段で販売されるようになりました。
筆者:昔は遠近両用と中近両用で値段が変わってしまう事から、お客様に不信感を与えることがありましたからね。
山本さん:そういったご意見が多かったので、レンズのランク別に設計を変えても同じ価格にしてお求めやすくさせて頂いたのです。
筆者:お仕事も生活様式も多様化し始めたのもこの頃からでしょうか?
山本さん:そうですね。見えすぎると疲れを感じたり、眩しさを感じたりすることも増えますので、ハッキリ見えることより、見やすいことに重きを置く方が増えたように感じます。
筆者:お客様でも1.5が見えないとダメと言う人は減って、1.0見えれば良いから見やすい方が良いという方が増えていますものね。
山本さん:それと、複数のレンズを生活シーンに合わせて使い分けする方が増えているのも、同じ値段で販売出来るようになった結果かもしれませんね。
筆者:その後も進化し続けて、いよいよindividualの時代が来るのですね。
山本さん:2013年、今から10年前にindividualの販売が始まりました。
お顔にフレームを掛けた状態を写真撮影して、頂間距離、前傾角、そり角を計測し、ベストな設定を施す究極のオーダーメイドレンズです。
その後、2018年には同じレンズでField、City、Roomの3タイプをご用意したindividualの販売も始まり、2021年に満を持して最高級レンズHOYALUX極(きわみ)が発売となりました。
遠近両用の最高峰「HOYALUX極」に使われている技術
筆者:HOYALUX極には、どのような技術が詰め込まれているのですか?
山本さん:先ずは「パーソナルフィット設計」、先程ご説明した頂間距離、前傾角、そり角の計測もそうですが、顔幅や目の高さ、鼻の高さ、耳の高さなども計測して複合的に最適な見え方を提供します。
山本さん:次に「側方Naturalアジャスト設計」でHOYALUX極の専用設計ですが、お手元を見る時のユレやユガミを軽減します。どのくらい違うかはレンズの周辺部の縦方向の伸び具合を比較してみてください。
山本さん:次もHOYALUX極の専用設計の「近用Naturalフォーカス設計」です。青や緑のラインは性能の違いを見やすくするためにつけた線ですが、単純にスッキリ見える幅が異なっているのがお分かりいただけると思います。
山本さん:これもHOYALUX極の専用設計の「両眼Naturalコントロール設計」ですが、テレビの下の方が丸くゆがんでいるのが、かなり真っすぐに見えるようになっています。
山本さん:HOYALUX極の専用設計が続きますが、「度数別スマート設計」もアピールしたい一つで、近視の人、遠視の人、それぞれに合わせて度数の最適化を図り、さらに加入度数(老眼の度数)も考慮した貴方だけのレンズを作ります。
山本さん:ここからは他のレンズにも使われている技術ですが、見やすさを実現する為には必要な技術です。特に「乱視軸ズレ補正」は斜めを見た時に発生する乱視の方向性を1度単位で補正することで、レンズの周辺部まで見やすくしてくれます。
山本さん:「エルゴノミック・インセット設計」は度数別、PD(左右の眼の幅)別、近業目的距離別に調整することで、手元の見やすい範囲を広げる設計です。
山本さん:「両眼バランス設計」は左右の目の度数差を補正して最適化することで、物をハッキリと見えるようにする設計です。
山本さん:「両面複合設計」はHOYALUX iDの所でご説明した、外側に縦方向、内側に横方向の設計を施し、手元の見やすさと視野の広さを融合させた設計です。
山本さん:これまでにご説明した各種の設計がHOYALUX極には全て含まれているので、最高級の位置づけになっています。
筆者:凄いですね。これだけの要素が詰まっているから最高級の極みなのですね。
お求めやすい「HOYALUX Optina(オプティナ)」が新発売!
筆者:HOYALUX極の凄さは分かりましたが、現実問題として「流石にちょっと手が出せない」というお小遣い制のお父さん達はどうしたら良いでしょうか?
山本さん:2023年6月15日に新発売となったHOYALUX Optina(オプティナ)をご検討いただけると良いかもしれません。
HOYALUX OptinaはHOYALUX極でも使われている両面複合設計をベースに、両眼バランス設計、両眼Natural Control設計、度数別、PD別、近業目的距離別のエルゴノミック・インセット設計を採用し、近方~中間の作業の見やすさを実現したレンズです。 まさに、スマートフォンを中心としたタブレット、パソコンなどデジタルデバイスが生活の中心となった社会に適合した累進設計と言えるでしょう。
筆者:なるほど、HOYALUX極で使われている技術を流用しつつ、現代社会に合わせて特に近方~中間を見やすくした累進多焦点の遠近両用レンズなのですね。
山本さん:はい。近くを見る時間が長い方は、是非、お試し頂ければと思います。
筆者:参考になりました。有難うございます。
ここまでお付き合いいただいた読者の皆様も、遠近両用レンズをご購入の際は、是非、参考にして頂ければと思います。
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